東京都には、民間の芸術文化への支援がない
東京都の芸術文化支援は、東京都交響楽団に集中していた(約10億円/令和2年度当時)。
東京都は東京都交響楽団以外の芸術文化も応援したらいいのにと、都議になってから思っていた。
東京都交響楽団への助成額と収益や集客数を民間と比較し、東京都交響楽団が相当恵まれた環境だとわかったので、芸術文化の所管局であった東京都生活文化局に、
「民間への助成を増やせないか?」
「できれば人経費や経費などに使える経常的な支援が望ましい。」
と要望を伝えた。
しかし、「現状で十分行っている。」という返答であった。
当時の支援内容は、東京都が公演のフレームだけ用意するものがあったが、芸術文化の下支えにはなっていなかった。
東京2020五輪で、音楽が溢れる東京に

民間の芸術文化を支援する意味は3つあると考えていた。1つは都市としての魅力、2つめは産業としての側面、3つ目は心の栄養になる。芸術文化が集積する東京だからこそ、支援する意味があると思った。
知事与党として東京都に民間の芸術文化への予算要望を続けても全く埒が明かなかった頃、東京2020五輪の開催が近づいてきた。
そのタイミングで、オリンピック・パラリンピックの期間中に都内で気軽に手軽に芸術文化に触れることができる環境を作りたいという要望が届いて、調査活動を始めた。
この活動を通じて、作曲家の故服部克久氏をはじめ、作曲家、奏者、歌手、司会者、俳優、文化人、演出関係者、レコード会社、プロモーターなどとの出会いがあった。東京で開催する五輪に、多くの人が参加し、チケットなしでも楽しめる仕組みを作る必要があると確信した。
新型コロナウイルスが、東京の芸術文化を直撃
感染対策として、人が集まる「密」の防止が行われた。人の活動が制限され、通勤は在宅になり、外食や旅行も制限され、芸術文化の優先度は低くなっていた。
その影響で、芸術や文化関連の公演・イベント・展覧会等が軒並み中止になった。舞台芸術などは、俳優以外にも照明や音響などのスタッフがいて成り立っており、公演中止による影響は広範囲に及んだ。
支えるスタッフの収入も激減し、廃業や転職を余儀なくされ、再び声を掛けても専門人材が集まらない危機になっていた。
芸術文化に関係する人たちから「自分は必要とされていないのでは」「東京が繋いできたものが消える」という声を聞いた。
署名活動と草の根運動を開始

そこで、一念発起して、今まで出会った芸術文化関係者と協力して署名を集めて、都知事に届けることにした。
1人ではできないので、芸術文化に関心がある同僚都議に声をかけて、草の根運動を始めた。公演自粛となったライブハウス、歌声喫茶、能楽堂などにも聞き取りに行って現状を聞いて歩いた。署名は美術、落語、演劇、映画館等へも広がった。
(閑話休題)演劇との出会い

私が中学2年生の時に卒業間近の3年生を送る全校イベントがあり、演劇「かげの砦」が2年生としての演目になった。当時の担任が演劇に精通しており、このイベントの責任者にもなっていた
私は担任教師の谷川芳男を演じ、担任の知人だった青年劇場の監督や所属俳優から指導を受けることができた。当時中学2年生の私には大人の心情を読み解くことが難しく、どうしても理解できない一節があった。その台詞に込められた教師谷川が葛藤した意味を監督に質問した。ストーリーを読み解いた先に見える景色は、別世界のようだった。たった1日の上演は大盛況で終わり、私は演劇に魅了された。
高校生になり、音楽教諭からミュージカル映画「オーケストラの少女」を見せてもらい、夢中になった。
都議に初当選した小金井市はミュージカルカンパニー「新生ふるきゃら」のアトリエがあった。瞬く間にファンになり、公演以外にもアトリエで開かれる催しに通った。
ついに、「アートにエールを!」が誕生

東京都生活文化局は、民間の芸術文化への支援を頑なに拒んでいた印象が残っている。この時ばかりは、このまま都庁に任せていたら、東京の芸術文化は本当に消滅すると思った。
本来、議会は知事が提案することの是非を審議するのが役目だが、このように都民の願いとかけ離れた行政が行われている時こそ、議会側の真価が問われる。
集めまくった署名を持参して、アーティストや関係者が都知事を訪ね、民間のアーティスト支援をお願いした。
2020年4月24日の都知事会見で、「アートにエールを!」が正式に発表された。
芸術文化はスタッフの存在が重要なので、支援の対象にスタッフを含めることは譲れない条件だったが、その点も含めて納得できる内容だった。
東京都生活文化局は一筋縄ではいかない頑固な相手だったが、やると決めてからの対応は早く、改善や追加支援も厭わず行う様を見て信頼したし、感謝した。
よい政策は、他会派(党)も関心を持つ
都議会には暗黙のルールがあり、政策実現に尽力した会派(党)が最初の質問を行う(※)。この場合は、当時、私が所属していた都民ファーストの会の質問に答える形で「アートにエールを!」が議会で発表された。
また、「よい政策」かを判断する材料として、他会派からの質問が有るか、他会派が成果としてPRするかを見るとわかる。この政策は、他会派が盛んに自分たちの成果としてPRしてくれたので、「よい政策」として認められたのだと確信した。
「よい政策」が実現できた背景には、会派の存在がある。だから、会派のメンバーと政策成果を分かち合いたいと思った。でも、汗をかいたメンバーの努力を無視して、「あれをやったのは、私ですから」は言い過ぎだと思う。
※この暗黙のルールは、与党にのみ適用されることがほとんど。また、都庁側が作った新しい政策がある場合に、与党との打合せに基づいて質問に至ることがある。
「アートにエールを!東京プロジェクト」の概要
芸術文化活動支援事業として実施。
新型コロナにより公演・イベント等が延期・中止になるなか、
①アーティスト等の創作・発信の場を設ける
②都民が在宅で芸術文化に触れる機会を提供
募集作品 自由な発想を生かした動画作品を投稿
出演料相当 1人10万円(1作品につき上限100万円)
対象者はプロとして活動しているアーティストやクリエイター、スタッフ等
コメント