「性教育の手引き」を改定、実態に即した内容に

「性教育の手引」の表紙 プロフィールと実績

ネットの不確かな性情報、実態に追い付かない性教育

内閣府の調査(2007年)によると、性教育を行っている家庭は23%であった。「青少年の性行動全国調査」(2011年)では、中学生では男子が20.7%女子は19.5%ネットで性に関する知識を得ているとする調査結果がある。
厚生労働省(2016年)によると、国内において10代の出産は1万件/年以上、10代の人工妊娠中絶は約1.5万件/年になると報告されている。
また、警視庁(2017年)によると、SNSを通じた10代の性被害が2017年に過去最多となった。
ネット等で不確かな情報が溢れている一方で、学校における性教育は、子どもたちの実態とかけ離れた内容になっていた。

妊娠SOS(現、ピッコラーレ)との意見交換

田の上いく子都議らの紹介で、妊娠葛藤相談などを行っている「妊娠SOS」(現、ピッコラーレ)から詳しい話をきくことができた。性教育の実情、予期せぬ妊娠や虐待などの実態を知った。
子どもは、性の知識がないまま、寂しさ欲求に任せて行動する場合があると聞いて、なんともせつない気持ちになった。
話しを聞いて、性の知識を子どもから遠ざけるのではなく、正しい知識として学ぶ機会が必要だと思った。

会派全体で「東京都の性教育」に関する討論会を実施

文教部会を中心とした話し合いの模様

通常の段取は、会派の政務調査会で政策の原案をつくって総会等ではかるのだが、性教育については全議員対象にした話し合いが必要だと判断した。政調担当だった私が責任者となり、教育に関心がある議員での話し合いや全議員での話し合いなどを行った。
出席した都議からの意見は以下のとおりであった。
・小学生の実態と学校の性教育が合致していない
・性教育は命に焦点を当てるべき
・性教育の効果検証が必要
・学習指導要領で全て解決できる訳ではない
・区市町村の仕事として、性教育を実施するには限界がある
・親の世代も十分な性教育を受けたか疑問だ
・家庭内では恥ずかしかったり照れたりして、性の話ができない 等々
話し会いを通じて、会派は性教育指針の改訂を目指すことで決まった。

東京都教育庁は、改定を拒んだ

東京都の「性教育の手引き」14年間改定されていなかったが、所管局の東京都教育庁との交渉を開始した。
予想の範囲内であったが、東京都教育庁は「性教育の内容を改める必要はない」と回答してきた。
東京都の性教育の歴史には色々な出来事があったのは確かであり、東京都教育庁とすれば、新たな火種を持ち込まないで欲しいと思ったのかも知れない。性教育には保護者の了承が必要であったり、学校側への配慮もあったと思う。
だが、2016年、文科省の中央教育審議会は、子どもたちが健康情報や性に関する情報等を正しく選択して適切に行動できるようにする必要があると答申を出していた。このままでは、東京都教育庁はこの答申を否定することにもなる。まして、子どもに関する性の問題がわかった以上は放置できない。
とはいえ、本件は過去の事例や外部にも影響するので、通常の政策よりもハードルが高かった。東京都教育庁に正面から交渉するだけでは動かないし、失敗したら会派の実力が問われることになり、そうなると当分は教育分野での提案が難しくなることは経験値のある都議なら理解できたと思う。
何でも都知事サイドに頼み込む都議もいるが、今回のような地道な活動は都政を理解するうえで必要であり、自分自身のためにもなると気づいて欲しいと思った。
そこで、東京都教育庁に対しては、専門家の意見、公的な調査結果、団体の意見などをエビデンスとして、話し合いを続けた。

性教育の最先端「秋田県」を視察

秋田県庁の写真
秋田県庁

秋田県は、全国の中で最も性教育に力を入れている自治体。同県はかつて人工妊娠中絶率が全国平均の1.7倍に達した。
その現状を憂い、県医師会が立ち上がり、子ども達の実態に即した性教育が始まった。その効果は顕著で、人工妊娠中絶率の値は全国平均値を下回った。
そこで、2018年に秋田県教育庁県医師会を訪問した。驚いたことは、性教育の教材は県医師会が中心になって作成したことであり、肝心の中身は大人ですら知らなかったこと、恥ずかしくて確かめなかったことに、詳しくポイントを押さえて解説されていた。
また、秋田県の性教育授業は、生命の大切さ、性感染症、交際、妊娠、出産、避妊、中絶などについてしっかり触れていた。医師という専門家だからこそ、正確さと訴求力があり、納得させることができると思った。
この視察によって、東京都の性教育に求める内容に確信を得ることができた。

東京都の「性教育の手引き」が改訂へ

「性教育の手引」改訂の内容を記載したプレス発表資料

都知事による記者発表、都議会での質問などを経て、東京都の「性教育の手引き」14年ぶりに改訂された。改訂にあたっては、多くの専門家の協力があった。
会派として、東京都教育庁に求めたことは2点。
1.正しい知識を学ぶ場と実情に即した性教育
2.医師等の専門家による性教育の実施
いずれもの要求も改定に反映されたと認識している。

新しい「性教育」、都内5校でモデル授業

2018年度、医師が講師となって都内の5校でモデル授業が行われた。
授業内容は、人間性を育む上で大切な「生と性」を中心に行われ、思春期の不安や悩みの解決、性的な発達への対応(避妊・人工妊娠中絶など)について行われた。その内容は文科省の学習指導要領よりも踏み込んだ内容になった。
印象的だったことは、授業が進むにつれて生徒たちの表情が真剣になり、引き込まれていくのがわかった。携わった議員や教育庁職員と、改訂を実施してよかったと互いに労った。
今後は希望する学校を募り順次対応することなどを検討する予定。(2018年現在)

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